1.認知症の基礎知識
ア 認知症の定義
認知症とは、生後いったん正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消失することにより、日常生活・社会生活を営めなくなる状態をいいます。
イ 認知症の症状
認知症の症状は、中核症状と周辺症状に分けられます。
中核症状とは、脳の細胞が壊れることによって直接生じる症状です。具体的には、(1)記憶障害、(2)見当識障害、(3)失語・言語障害、(4)失行、(5)失認、(6)実行機能障害(判断能力の障害)があります(詳細は、ウをご覧ください)。これら中核症状は、認知症の重症度を判定する目安になります。
周辺症状とは、中核症状に性格・素質、環境・心理状態等が加わった結果引き起こされる具体的な生活障害です。
ウ 認知症の中核症状(認知機能障害)の内容
(1)記憶障害
記憶障害とは、記憶力の低下や物忘れの症状をいいます。加齢による物忘れは、ある体験の一部を忘れるため、他の部分の記憶をたどって忘れた事柄を思い出すことができます。他方、認知症の物忘れは、体験全部を忘れてしまうため、上記のように他の記憶をたどって思い出すことができませんし、体験全部を忘れてしまった結果、自分がそのことを忘れてしまったということが分かりません。例えば、加齢による物忘れなら、財布の置き場所を忘れても、財布をどこかに置いたことは憶えていますが、認知症の記憶障害の場合は、財布を置いたことも忘れてしまいます。この結果、「財布を誰かに盗まれた」といった物盗られ妄想が生じることになります。
記憶障害は、更に、短期記憶障害、長期記憶障害、エピソード記憶障害、手続記憶の障害、意味記憶の障害などに分類されます。
(2)見当識障害
見当識とは、日時・季節、場所、人物などの自分がおかれている状況を認識する能力をいいますが、これらの事柄を正確に認識できなくなる障害を見当識障害といいます。
見当識障害は、時間・場所・人の順番で進行し、人物に対する見当識は、毎日会う同居の家族か普段は会わない人かでも変わります。同居の家族や頻繁に顔を合わせる人物が分からなくなった場合は、相当見当識障害進んでいると評価されます。
(3)失語・言語障害
失語・言語障害とは、聞く・見ると言った情報のインプットや話す・書くといった情報のアウトプットに関する機能が障害されることをいいます。具体的な症状としては、言葉の言い換え、単語を思い出すこと、会話や文書の内容を理解し難くなる、オウム返しをするようになる等の症状があります。
(4)失行
失行とは、身体の運動機能は損なわれていないにもかかわらず、意図した行動ができなくなることをいいます。具体的には、普段使っている道具(例えばリモコン)を使えなくなったり、衣服をうまく着られなくなったりするという症状があります。
(5)失認
失認とは。視覚、知覚の機能に問題がないにもかかわらず、対象となる物・事象を理解したり、把握することができなくなることをいいます。失認の症状としては、動物と遊んでいる様子を見て、動物をいじめているととらえたり等があります。
(6)実行機能障害(判断能力の障害)
実行機能(判断能力)とは、物事を論理的関係を整理したり、順序立てて考えるなどして、行動に移し、目的を達成するために必要な機能をいい、この能力が障害されるのが実行機能障害(判断力の障害)です。料理、洗濯などの家事に支障が出てくるのが典型です。
エ 認知症の周辺症状
認知症の周辺症状とは、中核症状によって引き起こされる具体的な生活障害のことです。周辺症状は、実際の生活において発生している現象ですので、看護記録や介護記録を確認することにより、遺言者に生じていた周辺症状を把握することができます。
周辺症状としては、主に、物盗られ妄想、せん妄、幻覚・幻聴、うつ・抑うつ、暴力・暴言、不眠、徘徊、異食、過食、失禁、不眠・昼夜逆転、帰宅願望などがあります。
目次
- 認知症の基礎知識
- 認知機能障害と遺言の有効性の関係