遺言無効を立証する
事実関係を幅広く把握する
遺言無効を主張するには、遺言当時及びその前後の遺言者の具体的な心身の状況・言動等の事実関係を把握し、これらの事実関係から遺言の無効原因を特定していく必要があります。
そして、遺言者の心身の状況・言動等を正確に把握するには、その当時に作成された客観的な記録が最適です。遺言者が認知症の場合は、医療記録・介護記録・要介護認定申請に関する記録を取り寄せることが重要です。
医療・介護サービスの利用経過を把握する
遺言無効を主張する典型的な事案は、遺言者の介護等に主に携わっていた方に極めて有利な内容の遺言が不当に作成されるという場合ですので、このような場合、遺言無効を主張する側は、遺言者の入院・通院の経過や介護サービスの利用経過、要介護認定を受けているか否かすら知らない場合があります。
このような場合、医療記録や介護記録を取り寄せようとしても、対象となる医療機関や介護施設が不明ですので、まず、医療機関と介護サービスの利用経過を調査して、その内容を把握することになります。
病院・介護事業者ごとの医療記録・介護記録等を取り寄せる
遺言者の入院・通院経過と介護サービスの利用経過を把握した後、個々の医療機関・介護サービス事業者から、医療記録又は、介護記録を開示してもらいます。開示を受ける方法は、各医療機関・介護サービ事業者ごとに開示手続を定めているので、個別に確認する必要があります。また、弁護士が代理人になっている場合は、弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会によることもできます。介護サービス事業者に関しては、法令により作成が義務付けられた文書がありますので、これらの開示を求めるのがよいでしょう。
また、遺言者が介護サービス事業者を利用している場合、ほぼ要介護認定を受けていることから、要介護認定申請に関する記録(主治医意見書、要介護認定調査票、介護認定結果通知書)の開示も求めることになります。
医療記録・介護記録から無効原因を特定する
医療記録・介護記録には、医学的知見に基づく医師の診断結果や遺言者の日々の言動などが記載されています。これらの記載と認知症の中核症状と周辺症状の関係を意識して医療記録・介護記録を読み込むと良いでしょう。
情報整理の視点
認知症を根拠として遺言無効が主張される場合、裁判所は、主に(1)精神医学的観点(精神医学的疾患の程度)、(2)行動観察的観点(遺言時及びその前後の言動)から意思能力の有無を判断するとされています。そこで、この観点に沿って上記アないしウの資料を整理するとよいでしょう。大まかな整理としては、以下のとおりです。